観覧車【短編】


すると軽やかに笑ったあとで
コツ、と靴を鳴らしながら
彼は私の方へと近付いた。


「……ずっと、貴女に会うことを心待ちにしてきた気がするんです。この長い人生の中で」


そう言って私の目の前で
私だけに
その微笑みを向ける。


「貴女に会う瞬間を
僕はいつも特別に感じていた。
もちろん、今この瞬間も」


風が吹く。


むせるような秋の匂いが
私たちを包んでゆく。


「……私もです。
貴方を、ずっとずっと
待っていた気がする」


そうして愛しさを込めて微笑むと
彼も甘く目元を緩めた。


「貴女の名前を伺っても?」


低く胸の奥を震わせる彼の声。


微かな予感が胸を過ぎる。


「もちろんです。
私の名前は――…」


私はきっとこの人と
同じ道を歩いていく。


そんな予感が
私の中に確かにある。


彼の背中越しに観覧車が見える。


廻る、廻る。


まるでそれは幾度となく巡り会う私たちの運命みたいに。


抜けるような青空と
カラフルに映える観覧車が
私たちを優しく見つめている気がした。


END.



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