社長の旦那と恋知らずの妻(わたし)
串田さんが優しくて本当に良かった。
ああ言っちゃったのにここで断られたりしたら哀しいし辛いし切ないし‘家族だからなんですか?私は社長の許可が降りない限りどうする事も出来ません’なんて言われてしまうかと冷や冷やした。
「では、私はこれで失礼致します」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
クイッと眼鏡を上げた串田さんはそのまま拓斗さんへと視線を向けた。
「社長」
「なんだ」
「明日くらいはゆっくりと」
「分かってる」
眉間に皺を寄せた拓斗さんはシッシと言わんばかりに手を動かした。
「では、私はこれで」
「あぁ、世話かけたな」
私は串田さんを追いかけて玄関に向かう。