『サヨナラの3分前』【短編集】
2.親愛なるキミへ


     〜親愛なるキミへ〜



カーテンの隙間から、朝日が差し込む。



眩しそうに、キミの寝顔が歪んだ。



「もう朝だよ」



朝が苦手なキミを起こすのが、ボクの毎日の習慣。





最近、キミの帰りが遅い。



男と会ってる事を、ボクは知っている。



もう何年、キミと一緒にいると思ってるんだ。



キミの事なら、何でもわかってしまうんだから…。





今日のキミは、特に目覚めが悪い。



不機嫌そうに、ボクに枕をぶつけてくる。



「だったら自分で起きろよ」



そんなふうに突き放せたら、どんなに楽だろうか…。



ボクには、それが出来ない。



朝になればキミを起こし、夜は帰りの遅いキミを待つ。



ボクは、それだけで幸せだから…。



でも、そんな日々は永遠に続いてはくれない。



ボクに残された時間は、あと僅かなのだから…。





「行ってきます」



そう言って家を出るキミを、今日もボクは笑顔で送り出す。



その笑顔は、引き攣っていなかっただろうか?



そろそろ限界のようだ…。



体が思うように動かない。



寝ぼけ眼のキミ…


惚れっぽいキミ…


泣いて帰ってくるキミ…



全てのキミが好きだったよ。



生まれ変わっても、また一緒になりたいなぁ。



ボクは、ゆっくり目を閉じた…。





何日くらい眠っていただろうか?



ボクの時間は止まっていたかのように、時間の感覚がない。



目を覚ますと、


心配そうに、そして嬉しそうに、


キミはボクの顔を覗き込んでいた。



あぁ…


キミはボクを必要としてくれていたんだね。





カチカチカチカチ…。



ボクの心臓が、元気に音を奏でる。



今日もボクはキミの時を刻む。



チリリリリリン!チリリリリリン!!



言葉にならない音で叫ぶ。



今日もボクはキミを眠りから覚ます。





それがボクの大切な仕事だから。



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