キミがいなくなるその日まで




アナウンスが流れた数秒後に大きな風と共に電車が駅に走ってきた。


『すごい!カメラ持ってくれば良かった』

シンは小さい子供のように電車が止まるまでずっと目で追っていた。車内に入ると貸し切り状態で、電車の匂いもなんだか久しぶり。


『シン、ここに座ろ』

私はドアに近い席に腰を下ろした。


もしもの時はすぐ降りられるようにしておかなきゃ。私はその“もしも”も繰り返しシミュレーションしてきた。


水も買ったし薬も余分に持ってきた。それから病院の番号はすぐかけられるように履歴を1番最初に。

もしお互い何かあって話せない状態の時に自分達の名前と病名、それからいつも飲んでいる薬の名前を紙に書いて持っている。


このもしもは何事もなく過ごす為のお守り。

不安を一つ一つ消していった結果、私のバッグは荷物でパンパンになってしまった。


『あ、マイ見て』

シンが指差す方向を見ると電車の窓から病院が見えた。こうして遠くから見るとさっき抜け出してきたなんて信じられない。


『いつも屋上から見ていた電車に俺は乗ってるんだね。夢みたいだ』


あのビルの隙間から何度この電車を見つめただろう。シンはきっと遥か前から、私が電車通学していた時から見ていたに違いない。


『不思議だけど病院に居る時より体が軽い。もしかしたら治っちゃったかもね』

へへ、と笑うシンはなんだか生き生きとしていた。きっと他の人から見たら私達は病人には見えない。


もしかしたら恋人同士に見える?

そんな事をシンの横顔を見ながら思った。


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