キミがいなくなるその日まで

┗居場所



───────────
──────

────



『はい、じゃぁ大きく息吸って』


今日もいつもの診察。風間先生は聴診器で私の心臓の音を聞いている。

ドクン、ドクンと体を波打つ脈。それが少し速いのはこれから先生にあるお願いをするからだ。


『はい、いいよ。昨日はご飯残さず食べたみたいだね。その調子で今後もたくさん食べてもらいたいな』


先生の他愛ない会話。私はギュッと洋服を握りしめて話を切り出した。


『あ、あのさ……私はちゃんと自分の体の事は分かるし無茶もしない。駄目って言われるのは分かってるんだけど……』


起承転結(きしょうてんけつ)がない遠回しな言い方。だって言うからには望みぐらい持ちたい。


『うん?どうしたの?』


先生が聞く体勢になったところで本題に入った。


『3時間だけ外出させて下さい』


多分、先生に敬語を使うのも頭を下げたのも初めてかもしれない。


『理由は?医師としてそこは聞いておかないと』


外出させてもらえそうな嘘を付くべきか。

いや、きっとすぐにバレる。先生は顔色を見るプロだから。


『高校の文化祭に行きたいの』


私が担当していた出し物も準備も出来なかったけど、やっぱり参加したい。

もしかしたら私にとって最後になるかもしれないから。



< 45 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop