あなただけ
声がしたのは、ドアの方からだった。


そこにあったのは、愛しいあなたの姿。


「恵。来てくれたんだね。」


「行くって言うたやろ。あと、一時間やな。」


「うん。手術、久しぶりだな。


でも、こんなに緊張したのは初めてかも。」


「なんでなん?今まで緊張とか不安とかなかったん?」


「あったよ。でも、そこまで気にしなかったかな。


あの時は、どうせ生きてても一人だし


死んでも一人だから、結局どこにいても


私が、ひとりぼっちなことには変わりないって思ってたから。」


「そうか。・・・今は」


「一人じゃないんだよね、私?」


「当り前やろ。俺がおる。まぁ、春登もな。」


そう、今は一人じゃない。
< 206 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop