潮騒
ふたりはきっと、親友と呼べるものなのだと思う。


だからこそ、マサキは苦悩しているのだろう。



「何かさ、わかってもらえねぇのって悲しいもんだな。」


「………」


「けど、あの女だけはどうしてもダメなのに。」


苦虫を噛み潰したように漏らされた言葉と、憎しみのこもるようなその瞳。


理由なんて、とてもじゃないけど安易には聞けない雰囲気が漂っている。


でもあの女の人、悪い風には見えなかったよ?


とは、やっぱり言えなかった。


顔を覆った彼は煙草を咥え、白灰色にため息を混じらせる。



「なのにアイツ、散々忠告してやったのにマジになりやがって。」


色恋なんてものは、自分自身でさえコントロール出来なくなる時がある。


だから本来は、それを他人がとやかく言うべきではない。


きっとマサキだってそんなことくらいわかっているはずなのに。



「ねぇ、ご飯作るから帰ろうよ。」


結局、あたしが選んだ言葉はこんな陳腐なものだった。


けれどマサキは小さく笑い、腹減ったしな、と疲弊した顔で呟いた。


立ち上がった彼に手を引かれる。


繋いだそれのぬくもりを感じ取るほどに、余計に切なさだけが増していた。

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