潮騒
偽物に満ち溢れた場所だった。


フロアの喧騒の中、彼が吐き出した煙が静かにたゆたう。



「この先どうしたいとかってまだ考えられないけどさ、スミレさんも俺のこと想ってくれてるから、今はそれだけで良いんだ。」


「………」


「だから何を犠牲にしたって、俺はあの人を守ってあげたいの。」


そう言ったチェンさんのオッドアイの瞳は、決して揺れ動くことはない。


強い決意がそこにはあった。



「ねぇ、ルカちゃんはさぁ。」


と、不意に滑らされたその瞳。



「愛情と友情、選ばなきゃならなくなった時はどっちを取る?」


答えることが出来なかった。


チェンさんは意味深にだけ口元を緩めて見せ、



「そろそろ行かなきゃ。」


「…えっ…」


「じゃあ、仕事の邪魔してごめんね。」


そして立ち上がり、去っていく後ろ姿。


どうしてこの街では、愛し、愛されるということがこれほどまでに難しいのだろうか。


今月、美雪はナンバー入りを果たした。


レンとのことはよくわからないけれど、でもそれなりに上手くやっていると聞いている。


更衣室で眺めた売り上げのグラフ。


相変わらずあたしは、体を売ってナンバーワンになっていた。

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