潮騒
たったそれだけの文章のどこにも、核心に触れる部分はなかった。


罪を犯しただとか、死んで詫びるだとか。


その意図がまるでわからなくて、何より誰に向けて書いたのかさえも不明だった。



「レンのポケットから出てきたんです、それ。」


「これ、どういう意味なの?」


けれど彼女は首を振り、あたしにもわからないんです、と消え入りそうな声で言った。


と、その時、病室から出てきたのは看護師さんだった。


ネームプレートに宮原と書かれている彼女はこちらに気付いたようで、



「ごめんなさいね。
意識は取り戻したんだけど、かたくなに誰とも会いたくないからって言い張ってて。」


「………」


「身内にも連絡する必要ないからって、そこまで言うもんだから。」


宮原という看護師さんは困ったような顔をし、こちらに会釈をしてからきびすを返した。


こんなにも心配しているあたし達にまで会いたくないと言うのか。


無性に憤りを覚え、



「あたしが話してくるから、美雪はちょっとここで待っててよ。」


「…え、でも…」


「良いから、任せて。
どんな理由かは知らないけど、くだらないことなら一発殴ってやらなきゃ気が済まないから。」


ずっと逃げることなくすべてに向き合ってきたレンなのに。


あたしは美雪の制止を押し切り、ドアを開けた。


ベッドに上体を起こして座っていたレンは、驚いたように目を丸くする。



「…何で、ルカが…」

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