潮騒
マサキによってベッドに寝かされる。


血の繋がった人がすべて消えてしまったわけではないというのに、なのにどうしてこんなにも、心にぽっかりと穴でも開いてしまったように感じるのか。


彼は何も聞いては来ないまま、まるで絵本でも読んでいるみたいにあたしに語りかけた。



「なぁ、どっか遠くでも行くか。」


「………」


「ちょうどゴールデンウィークも過ぎたし、人少ないだろうから泊まりでさ。」


「………」


「いや、いっそそこで一緒に暮らしちゃう?」


笑い混じりのそんな言葉にさえ、相槌ひとつ返せなかった。


くれる優しさの分だけ、弱くなる。


マサキでさえも、いつかはいなくなってしまうのではないか、と。


ベッドの中でうずくまったままのあたしに、彼はひとつため息を吐き出してから、



「俺はちゃんとここにいてやるから。」


その瞳は、どこか悲しそうで、でもひどく優しいものだった。



「全部受け止めてやるからさ、好きなだけ泣いて、吐き出せば良い。」


「………」


「でもその代わり、死のうとだけはするなよな。」


涙が溢れて止まらなかった。


真っ暗闇に染まった部屋に舞う悲しみが、そっと彼の腕によって包み込まれる。


あたしはマサキの胸の中で眠りに落ちた。

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