潮騒
「スナックなんてファンタジーに比べたら楽なもんですよ。
それに実家に戻ったから、色々と余裕が出ました。」


実家、か。


やっぱりどう考えたってカオルちゃんとは暮らせない。


もう戻る場所のないあたしは、少し困り気味に顔を俯かせた。


完全に鎖の外れた自由なんて、逆に身動きを取れなくさせるのかもしれない。


今日も広がる重たい曇り空は、鉛のような色をしていて、まるであたしの心模様そのままを映す。



「レンとは?」


「たまに会うくらいですよ。
お互いの生活が落ち着かないうちは、やっぱり遊んでられませんからね。」


煙草の味が苦かった。


空を飛ぶ鳥を見つめながら、ふと、チェンさんのことを思い出した。



「愛とお金は、やっぱり悲しいけど、延長線上には存在しないんですよね。」


正しい、けれど悲しい話。



「でも、愛だけでも、逆にお金だけでも、人は生きてはいけないよ、きっと。」


美雪はまた寂しそうに顔を俯かせる。


それは理想論なのかもしれない。


けれど、やっぱりあのオッドアイの瞳が、今も忘れられないの。



「変な話ですよね。」


彼女はふうっ、と息を吐き、



「愛もお金も、転び方次第で、幸せの理由になることもあれば、憎しみ合う理由にもなるんだから。」

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