潮騒
季節はすっかり夏になっていた。


暑い、暑い、暑い。


ただそれだけの、端的でしかない思考力。


マサキとはもう、同じ空間で共に存在しているだけのような関係だ。


口を開けばチェンさんの名前を呟いてしまいそうで、だからいつも互いに言葉を探してしまい、結局は、ろくな会話にならずに終わってしまう。


欠けたものだらけで、そこを埋める術を知らずにいたから。


だからもう、あたし達は支え合って立つことすら出来なくなっていたのだろう。



「仕事、行ってくるから。」


マサキはたまに、ふらっと出ていく。


本当に仕事をしているのかどうかはわからないけれど、でもあたしは、言葉を返すこともしない。


見送ることさえしなくなっていた。


好きだという気持ちは、何も変わりないはずなのに。


なのにあたし達の間に入った何かの亀裂は、知らない間に大きく膨張し続けている。


このままじゃダメなのだということはわかっていた。


けど、でも、立ち上がることは出来なかった。


いつもマサキの不在を見計らったように、レンは現れる。



「お前、また痩せたな。」


「………」


「そこまでいくともう病的で、気持ち悪ぃから。」


それはもう、挨拶文句と変わりないくらい、聞き飽きた台詞だった。


レンは我が家のキッチンで、勝手知ったるように、そうめんを湯がいてくれる。


けれどその、立ちこめる匂いにさえ嗚咽を覚えた。

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