潮騒
「俺の命令は天国のユズルくんからの命令だと思え、って昔言ったろ?」


「…うん。」


「ほら、だから行ってこい!」


あたしはぼろぼろと涙を零しながら、何度も何度も頷いた。


レンはそんなあたしのぐちゃぐちゃな顔を服の袖で拭いながら、



「もう、何も気にせず、お前は自分の意思を尊重しろよ。
誰に何を言われたって、あとで後悔するよりはずっと良い。」


彼は強くそう言い切った。



「…あたし、は…」


あたしはあの時、マサキを止めたかったんだ。


それなのに、色んなことを理由にして、怖がることしか出来なかった。


息を吸い込み吐き出して、今度は決意してからレンの目をしっかり見据えて頷くと、彼は満足そうにニシシッと笑う。



「今朝、何年か振りにユズルくんが夢に出てきた。
だからやっと気付いたんだけど。」


「………」


「ホントは一番に味方してやらなきゃダメな俺が、ずっとアイツとのこと許してやれなくてごめんな。」


そしてレンは、あたしに向かって人差し指を突き出してから、



「もう反対なんてしねぇから、今度はアイツのこと連れて、一緒に俺の前に来い。」


すごく偉そうな口調でそう言った。


いわし雲が穏やかに空を泳ぎ、あたしは泣き顔で笑いながら、手の平にある紙切れを強く握り締めた。



「ありがとね、レン。」


レンが背中を押してくれたから、まるで雲間に光が差したように、迷いさえも消え去った。


今も、昔も、これからも、レンの言葉に励まされる。

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