潮騒
タクシーから降りた場所は、見るからにアンダーグラウンドな世界で、さすがにちょっと尻込みしてしまう。


廃墟のような倉庫街を抜けてやってきたここは、まるで異世界のようだ。


陽が落ちてしまった世界は、すっかり夜の帳に包まれていた。


だから余計になのかもしれない、そこに吹く風はひんやりと冷たく、狭く圧迫された通りにひどい息苦しさを感じてしまう。



「あそこの看板のところですよ。」


運転手さんはそう丁寧に教えてくれた後で、



「ホント、知りませんからね?」


と、付け加え、車を走らせた。


そのテールランプを見送り、運転手さんが教えてくれた看板に目を凝らすと、どうやらそこはダーツバーだと書かれている。


チカチカと、切れかけた電飾が淵を囲む看板だった。


佇んでいるあたしを一瞥して通り過ぎる人はみな、まるでクスリでもやっているかのように虚ろな瞳で、それが嫌に薄気味悪い。


でもあたしは意を決し、そのドアに手を掛けた。


店内は薄暗く、テクノ系の音楽が鳴り響いていて、カウンターの中にいた人は、首まで蛇に巻かれたようなタトゥーが彫られている。


こちらに気付いた彼は、怪訝そうに歩み寄ってきた。



「アンタ、誰?」


「あ、えっと…」


「この辺じゃ見掛けねぇ顔だけど、客か?」


高圧的な態度と、目つき。


店内にいた数人の客たちもまた、あたしに気付いたようで、好奇の瞳を向けてきた。



「どっから来たのか知らねぇけど、ここは女がひとりで来るような店じゃねぇぞ。」

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