潮騒
桜貝を拾い上げたレンは、腕を振りかぶり、それを海の彼方へと投げ捨てて、



「なぁ、“潮騒”って知ってるか?」


「ん?」


「今みたいに満ち潮になる前の、波がざわつくことを言うんだけど。」


「うん。」


「波で言うなら凪が良い。」


「何それ?」


「今までは時化みたいだったからさ、そんなんじゃなくて、平和が一番だよな、ってこと。」


ちょっと年寄り染みたことを言ったレンが、可笑しかった。


ざわつく水面に西日がキラキラと反射して、遥か彼方まで煌めいている。



「でもあたし嫌いじゃないよ、潮騒。」


「どうして?」


「だって潮が満ちるために波がざわつくのって、幸せになるためにもがくことと似てるような気がするんだもん。」











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