僕は
第38章
     38
 品川ボールディング法律所に所属する川谷勝也弁護士が、野川の弁護を担当することが決まった。


 正直なところ意外だ。


 仮に川谷が裁判で敗訴するようなことでもあれば、事務所の看板に関わるからである。


 確かに日本の場合、強盗や殺人事件でも最高裁まで争うことが出来る。


 簡単に罪が決定するわけじゃない。


 ただ一審で死刑判決などが出たとき、二審や三審で覆すには相当決定的な新証拠でも出ない限り無理ということだ。


 だから野川のようなビル放火犯を弁護するには、相当な勇気が要るのである。


 川谷は一審で負けても控訴するだろう。


 だけど世論がビルを丸ごと焼いた人間を擁護し、容認するはずがない。


 それに僕たち司法に携わる人間から見ても、野川の減刑はおろか、無罪など到底無理だ。


 そんな判決を下せば、日本の司法制度のあり方が根幹から問われる。
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