それでも、まだ。
『…きっかけは私が怪我したときかな。黒組織が襲撃してきたときの。あのときから断片的だけど、たまに記憶が戻るときがあって。記憶のなかの私はリーヤってやつにすごい怯えていた。今事実が分かって納得しているんだ。もちろん憎いって気持ちはあるけど、今私は生きているし。』
セシアは上を見上げたが、すぐに神田の方を向いた。その表情は、何かスッキリしたような、そんな顔だった。
『…試すようなことを言ってすまない。でも私は知りたいんだ。自分の身に起きたことくらい。神田のおかげでまた少し情報が知れてよかった。』
自分が殺された、という事実を知っても、動じず、それどころか受け入れて前に進もうとするセシアに神田は呆気にとられた。
『…確かに、ベルガさんたちは私を守るために黙っているんだと思う。いろいろなことを。でも、それじゃあ私はどうすればいい?ただ守られているのは嫌だって思った。仲間はずれみたいで嫌なのもあるけど。』
そこまで言ったセシアに神田はああ、と思った。
―――一緒なのだ。神田もセシアも。
ただ知りたいだけなのだ。知るべきではないと分かっていても。危険だと分かっていても。
神田はさっきまであった心の中の恐怖や不安で入り混じり絡み合っていたものがほどけていく感じがした。
『…分かるよ。』
そう言って神田はにこりと笑った。セシアがここまで私に打ち明けてくれたのだ。私だって打ち明ければいい。すべてを。たとえそれが残酷な事実になり得るとしても。
『…セシアは、殺されたよ。黒組織の人に。でも私が知ってるのはそこまでなの。どうしてセシアが殺されたのか、そのあとどうしてこの世界に戻ってきたのかは私も分からないの。それが3か月前のことだよ。』
それから神田は神田とセシアが人間界で友達であったこと、神田が黒組織で知ったことをすべて話した。黒組織にいくきっかけも。話している間セシアはずっと何も言わずに神田を優しげに見つめていた。
『…ごめんなさい、勝手に抜け出して、みんなに迷惑をかけて。私のせいでみんな危険な目に…。』
神田が先程の出来事を思い出しながら目を伏せて消え入るように言うと、セシアはふうと息を吐いて、手と神田の頭に乗せた。
『…気にするな。たぶん私が神田だったら同じことをしてたし。みんな何も迷惑がってなかったし、むしろすごい心配してた。もちろん、私も。』
恥ずかしそうに言うセシアに、神田はこみ上げてくるものがあり、視界がぼやけてきて、神田は思わずセシアに抱き付いた。
『…セシアぁぁぁ!!』
『え、ちょ!どうしたんだ?!なんか変なこといったか?!』
そう言って慌てるセシアに、神田は見られないようにクスリと笑った。
記憶があってもなくても、セシアはセシアだなぁ、と思いながら。