それでも、まだ。


『ジルさん、レンさんはどこへ?』


『…アヴィルさんへの報告だ。』


『…珍しいですね、最近はジルさんに押し付けてたのに。』


『………ああ。』




――怪しい。

さっきから返事が曖昧だ。

いや、正確に言えば、神田の話を聞いたときから2人がおかしくなった。


表情ではさっき驚いたっきりいつものように戻った。


だが、2人で素人には分からないような目配せをやたらしていた。


そして組織のとある広間に入ったと思ったら、レンはすぐに出ていったのだ。



…2人のこのやりとりは私でやっと分かるくらいだから神田は気づいてもないだろう。


まあ、神田自身、30階もある組織の大きさにずっと驚いているだけだったが。


『あ、あの……。』


『ん?何だ?』


隣に居た神田が小声で話しかけてきた。



『トイレ…貸してくれませんか?』



ずっともじもじしてると思ったら、トイレしたかったのか。

まあ確かに、ジルさんには言いにくいか…。



『分かった、連れていく。』



そう言ってから、ジルに用を伝え、神田に背中に乗るよう仰いだ。



すると、ますます神田はもじもじし始めた。


『わ、私重いですよ……?』


『…ジルさんを見る限りそうは感じなかったぞ?』


『そ、それは私が傷つかないように気を使ったんですよ、きっと。』


『…ジルさんはそういう気遣いが苦手だぞ?』


『な、なら、表情を平静に保ってたんですよ、多分。』


『…あー、ジルさんは確かに表情隠すのうまいからなー、でもなんだかんだ』
『…さっさと行ってこい。』



ジルが顔を紅くして言ったのを見て、自分と神田は、お互いに少し笑い、神田を背負ってトイレへと向かったのだった。



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