それでも、まだ。


――台所にて。



『アヴィルさん、アヴィルさん。』



レンは声を弾ませながらテーブルでお茶を啜っているアヴィルの隣に座った。



『…なんだよ?』



アヴィルは幾分穏やかな表情でレンの方を見た。



『あらら、いつもよりご機嫌ですね〜。……いつもそうだといいのに。』



レンがボソッと言うと、アヴィルはすぐに眉を寄せた。



『あ?なんか言ったか、コラ。』

『なーんでも?…それよりも、いい子だったでしょ?』



レンがそう言うと、アヴィルは再び表情を緩ませた。



『…ああ、そうだな。…あいつに似てる。』


『…………。』



そのとき、皿洗いを終えたジルが
流し台から戻ってきた。



『お、ジルお疲れ様〜。皿何枚割っちゃった?』


『……10枚だ。』


『……それ、半分以上だよ?』


『……精進する。』



ジルがバツが悪そうな表情でアヴィルとレンの向かい側に座ると、煙草に火を点けたアヴィルがジルの方を向いた。



『…今度皿を大量に買ってこい。』


『…はい。…シキとマダムは?』


『もう部屋に戻った。…事情話してくれてんだろ。』




――沈黙が流れた。


レンもジルも黙って静かにアヴィルの反応を待った。



アヴィルの煙草の灰が落ちそうになったころ、ようやくアヴィルが口を開いた。



『…まだ完全に信用したわけじゃねぇ。…もちろんセシアもだ。』



ジリッとアヴィルが灰皿に煙草を押し付けると、レンは顔をしかめた。



『…どこがまだ不満なんですか?智将アヴィルさん。』



レンが皮肉混じりに言うと、アヴィルは小さく溜め息をついた。



『確かにあいつら自身は大丈夫なのかもしれねぇ。…問題は、あいつらを取り巻くモノだ。』



『取り巻くモノ、とは?』


ジルが静かに尋ねると、アヴィルは宙を見上げた。


しばらくそうしていたが、煙草を再び吸いはじめると、レンとジルの方に向き直った。



『…これから言うことは、誰にも言うんじゃねぇぞ。もちろん、幹部にもだ。』



そしてアヴィルは、静かに話し出した――…。



< 65 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop