時を止めるキスを


「分かりました。お金はあとで」

「いらない」

「そ、うですか。すみません」

キッパリと線引きをされ、お礼を込めて頭を下げるほかない。……セフレの対価かと嘲笑しなければ救われない。


私が顔を上げると視線が重なったが、その瞳はどこか苛立ちを含んでいてたじろいでしまった。


結局タイガーは無言で背を向け、私は慌てて起き上がり身体にシーツを纏って静かにその後ろ姿を見届けた。


ひとりぼっちになった部屋には静寂が包む。バサッと勢いよくシーツをベッドに投げると、素っ裸のまま恥じらいゼロでシャワー・ルームに向かった。


水滴の残るそこは、あの男がいた証がまだ残っていた。俯いて扉を閉めると、今日も虚しさと後悔だけが渦巻いていく。


三浦くんと話していた時に、男から呼ばれたあの瞬間。


ちょっとだけ、チーフが本気なのかと思ったけど。それは恥ずかしい勘違いだったと、数時間後に知らされた。


< 44 / 97 >

この作品をシェア

pagetop