きみとぼくの、失われた時間


押し潰されそうな感情を抱きながら俺は帰路の途中、自分の存在について考えた。

なにもかもがちっぽけに思えたのは俺が弱いからなのだと結論。

自己嫌悪に自暴自棄、此処には俺の居場所なんてないのかも、女々しくも馬鹿馬鹿しい念を抱き、小さな自嘲を漏らして帰路から脱線。
 

家に帰ることを諦め、自分の居場所を探すために住みなれた町を右へ左へ彷徨した。 


今、考えると居場所探しという名目の自分探しだったのかもしれない。




嗚呼、俺が“俺”であるための場所は何処だろう。

 


強い気持ちに駆られた俺は暮れる空の下。

くたびれた通学鞄をお供に商店街を通り抜け、行きつけの駄菓子屋を横切り、墓地の側の沼地を眺めて、居場所を求めて、もとめた。


それこそがむしゃらに。
 

ついに辿り着いた場所、そこは住宅街から外れた神社だった。
 

性格上、まったく立ち寄らない神社は閑寂として人の気がまるでなかった。


都会から隔離された場所というべきなのか、それとも人から忘れ去られた聖域というべきなのか、なんの神様が祀(まつ)られているのか分からないけど、神社は物寂れていた。


だけど俺にはひどく心地が良くて、迷う事無く塗装の剥げかけた鳥居を潜り、石段を上って、本殿前に立つ。


見れば見るほど古びた本殿だ。

それなりに由緒ある神社なのか…?
 

両隣の苔の生えた狛犬を眺めた後、俺はおもむろに生徒手帳から十円玉を取り出す。

お守り代わりにしていた貴重なギザ十だけど、小一時間お邪魔するんだ。

それなりのことはしないと罰が当たる。


これ以上の不幸・不運はごめんだ。


俺は賽銭箱に十円玉を放って、パンパンと手を叩き合掌。
 

頭を下げて、「お邪魔させてください」俺には他に行く場所がないんです、此処の神様に事情を説明した。

傍から見れば怪しいこと極まりないけど、此処には俺と神社の神様、それから狛犬くらいしかいない。


盛大な独り言を漏らしたって大丈夫だろう。


 
< 16 / 288 >

この作品をシェア

pagetop