きみとぼくの、失われた時間


はてさて高橋センセイとお話している秋本センセイですが、柔らかな表情はアラサーらしい落ち着いた面持ちだ。

常に二日酔いの常習犯だとは思えない大人な面持ちについつい微苦笑を零してしまう。


お前、やっぱアラサーなんだな。

俺とは15離れた大人なんだな。時を飛び越えちまった俺とは違う、人間なんだな。
 

高橋、そして生徒と交じって談笑する同級生の姿になんとなく微笑ましくなる。

いつまでも恍惚に眺めていたいけれど、そう時間もない。

俺は秋本がこっちを見てくれるよう手を上下に振って自己アピール。

歩み寄りたいけど、秋本が俺の姿を見えてくれているかどうか不安で近付けない。


だから必死に手を振ってアピール。


話に夢中の秋本はちっとも気付いてくれない。くそう、だったらドアを思い切り押して。



ガタンッとドアを勢い良く開ける。



音で数人の教師が視線をこっちに飛ばしてきた。反射的に壁に身を隠す俺だけど、すぐに顔だけ出して秋本の反応を見る。

「え、うそ」

声を上げた秋本はバッチシ俺と目が合った。
顔を強張らせている。

よし、内心でガッツポーズを取る俺は胸を撫で下ろす。


まだ秋本には姿が見えているようだ。


ヒラヒラと手を振って手招きする俺に、彼女は眼で“あんた。バッカじゃない。何してるのよ!”と訴えてきた。

おお怖い怖い、目が怒気を宿し始めている。


ニッと笑って職員室から離れる俺は、憤っているであろう秋本が廊下に出てくるのを待つ。

そう待たず秋本が廊下に出てきた。整った眉をつり上げて、俺の姿を探す彼女に「こっちこっち」手招き。

「坂本っ」

あんた此処で何してるのよ、ズカズカと歩んで俺の前で仁王立ちしてくる彼女はかぁんなり怒っているようだ。腕を組んで俺を見下ろしてくる。

ははっ…、怖っ。

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