きみとぼくの、失われた時間


鼻の頭を掻く俺は、「ん」小さく頷いて上履きを靴箱に仕舞う。
 

下履きを履きながら俺は彼女に先方の感謝を口にした。

俺を発見してくれたのは、遠藤と秋本だって聞いたから。


あの時代でも、この時代でも、二人は俺を探してくれていた。


感謝してもしきれない気持ちで満たされる。


何も言わない秋本は鼻を鳴らすだけ。スカートを翻して教室に向かってしまう。そんな彼女の背に俺はもう一度告げた。「サンキュ」と。
 
足を止めて振り返る秋本に微笑し、俺は昇降口から出た。

「坂本」秋本に呼び止められた。

「なに?」振り返る俺に、秋本はどこか物言いたげな顔を浮かべる。


けど、なんでもないと返すだけ。

結局俺は彼女の言いたいことも分からず、帰宅するほかなかった。




多分、契機はこれからだ。
 
翌日から一日に必ず一回は彼女と顔を合わせるようになる。
 
教室に行っていない俺と、教室に行っている彼女が顔を合わせるなんてそう数はない。


遠藤のように保健室に遊びに来てくれるならまだしも、登校や下校で偶然にも顔を合わせるなんて。

意図的に待ち伏せされているとしか考えられなかった。


だけどそれを指摘したところで向こうの反感を買うだけだろうから、何も言わずにしておいた。

顔を合わせる度に、彼女は俺に声を掛けてくる。

不慣れな光景極まりない。
以前は俺から彼女に話し掛けるが自然なスタンスだったから。

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