きみとぼくの、失われた時間


「だけどさ」遠慮する俺に、「ほっとけるわけないでしょ」ただでさえ動揺しているあんたを外に放り出せない。

この際、幽霊でも15でもなんでもいいわよ。

だから此処にいて。
子供が遠慮しないの。


矢継ぎ早に言われて、たじたじになっちまった俺はつい相手の表情を窺いながら尋ねる。「いいのか?」と。

すると彼女の表情が和らいだ。
 
うんっと頷いて此処にいなさい、教師らしい口調で俺の手首を解放。肩に手を置いて、此処にいていいのだと安心させてくる。


次いで、「あんた」私が泣いた意味を考えなさいよ、鼻の頭を指で弾かれた。


軽く擦って、鼻の頭を掻く俺は頭上にクエッションマークを浮かべる。


今日は混乱デイだよな。
雪崩れのように混乱する出来事が俺に襲い掛かってくる。

脳みそが爆発してもおかしくないぞ。


混乱している俺に一笑を零す秋本は、「あんた。こう見ると子供よね」意外と可愛いじゃない、片頬を抓ってきた。

当たり前だろっ、俺は15でお前は30、二倍の歳の差があるんだからっ。

てか、痛ぇよ! 抓るなって!
  

「はなひぇ、あきもひょ。おばひゃんっていうひょ(放せ、秋本。おばちゃんって言うぞ)」

「んー? 今、あんた。なんか生意気言ったでしょ? ねえ、坂本」

 
かるーく、嘘、かーんなり口元を引き攣らせる秋本が頬から手を放して痛い拳骨を脳天に落としてきたのはこの直後。

今のは利いた。
すこぶるヒット。
真面目に痛い。
死にそう。

脳天かち割れそう。

頭を押さえる俺は、ついつい口が滑って「暴力女」そういうところは変わってないよな、と独り言をボソリ。

あの頃も(って言っても俺にとっては思い出にすらなってないけど)俺を一蹴する時、何かと暴力で追い払っていたっけ。


「あ・ん・たはデリカシーがないのよ。おたんこなす」


眉間を人差し指で押さえつけてグリグリ潰してくる秋本だったけど、なんだか楽しそうに笑って、

「お風呂の用意してくるわ」

適当に寛いでいてと、食器を流し台に置いて廊下の向こうに消える。
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