カナリア鳴く空
優衣がそこにいた。

「大事なものだからな。

ちゃんと手入れしてやらないと、機嫌が悪くなる」

そう言ったわたしに、
「へえ」

珍しそうにトランペットを眺める優衣に、
「欲しいのか?」

私は聞いた。

「欲しいって、わたしは何も……」

紅くなる優衣が、かわいくて仕方がない。

そんな彼女の頬に向かって手を伸ばす。

「――ちょっ、誠司さん…」

口ではそう言っているわりには、逃げようとしない優衣にチュッと唇を重ねた。
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