レッスン ~甘い恋の手ほどき~

いつも残業の嵐の彼が、定時を少し過ぎただけで帰るなんて、きっと初めての事。彼はいつも、全員帰ったのを見届けて帰る人だから。



焦ったように歩く彼に手を引かれたまま、エレベーターに乗り込む。

丁度帰る人が多くて、満員だったそこで、私を壁際に立たせて、さりげなくガードしてくれる。
まだ、人ごみに入ると委縮してしまう私を、分かっているから――。


あれから何も言わない彼が、何を思っているのか予想もつかない。怒っているのかもしれない。あきれているのかもしれない。

ポーカーフェイスのメガネの下の瞳からは、何も読み取ることができない。

激しく動揺している私には、それが怖くて仕方ない。
身を挺して私を守ってくれたのに、それでもまだ足らないなんて……どれだけ私は、自信がないのだろう。


いつもは電車なのに、大通りでタクシーを止めて私を押し込む。
彼の家の住所を告げた後、膝の上に置いていた手を、彼がギュッと握り締めてきた。

それだけじゃなく、指と指を絡められる。
その手から伝わってくる温もりで、やっと安心できる。





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