冷蔵庫の穴

目覚めは悪くなかった。

コーヒーとトーストという
ありきたりな朝食を摂り、

バスに乗って
スタジオへ向う。
バスの中では
i podでビートルズの
アビーロードを聴いていた。

良いアルバムだ。

ひとつひとつの音が、
心の柔らかなヒダの部分を
突き刺していき、
思わず涙が零れそうになる。

そして
頭がボーッとしている。

スタジオへ着くと
メンバーは既にセッティング
を済ませていた。
あたしは急いで曲順を考え、
歌詞ノート
を乱雑に足元へ並べる。

いつも通り
リハーサルは進んで行く、
声の調子も良いし、
難無くメニューは
決まって行く、



いつもと何かが違う。

空気の流れというか、
あたしの中で、
まるで時間が
逆戻りしているかの様な
感覚が生まれ、
テンポ140の曲が、まるで
バラッドを歌っている気分に
苛まれる。

あたしのとある曲の一部分に

「無邪気な鳥達の群れに〜」

という歌詞があるのだが、
この部分を歌う度、

のり憑かれた様に、

いや、

とり憑かれた様に、

「とり」が「のり」
になってしまう。

何度歌っても
「無邪気なのり達の群れに〜」
と、意識とは裏腹に
舌が動いてしまう。

奇妙だ。

あたし以外のメンバーは
気付いていない。

それ以上の変化もなく
リハは終了し、直ぐ解散。

少し淋しい、

のは

あたしだけ。

メンバーはいつも通り
それぞれ街へ散って行った。

あたしも
通り慣れた家路へ足を運ぶ。

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