泣かない家族

母の髪の毛はあっという間になくなり、帽子が手放せなくなった。

家の中でも常に帽子を被っていてご飯を食べると顔をしかめた。

副作用で口の中にいっぱい口内炎が出来ていたから。

色白だった肌もどす黒くなり、爪も変色した。


抗がん剤を打って最初の一週間はこれに微熱も加わり、横になる事が増える。

2週間経てばやっと身体が楽になるのに次の週にはまた抗がん剤。


ガンを殺すという事はここまで過酷なのかと悲しくなった。


散々色んな種類の帽子を買ったけど、たまたま行ったユニクロの布生地の帽子が一番しっくり来るらしく、今まで高いお金を出して買った帽子は何の意味もなく笑ってしまった。


辛くても夕飯を必ず作って、愛犬の散歩に行く母は偉いを通し越してストイックにさえ見えた。


抗がん剤を打った日は疲れた顔をしながら


「ガン、小さくなってるかな」


と呟く事が多かった。


「これだけ苦しいんだから小さくなってなきゃ困るよね」


あたしが言えるのはこれだけ。


ガンと戦うのは本人であって、家族は見守るしか出来ない。

苦しいのを代わってやる事も出来ないからなるべく普通に接する。

特に励ましたりもしなかった。


あたしの日常も変わりなく仕事をして実家か彼氏の家の往復。

母の代わりに家事をなんてしてあげなかった。

普通にしてれば気を遣わせないと思っていた。


今、思えば代わってやってあげたら少しは親孝行出来たのかな?と後悔ばっかりしている。
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