透明水彩

…――ドキッ、と高鳴った胸に、思わず顔を伏せる。
眠そうな莱はあたしのその行動に気づいてはいないようだったけれど、湊は一部始終を見逃さなかった。


「……おい、莱。今日はお前が飯当番だろ。さっさと準備しに行けよ。」

「ハイハイハイ。わかってますって。……ったく、相変わらずウザいセンパイですよねー。」

「てんめっ!」


もっともらしい理由によりこの場から追い払われた莱は、最後に湊を怒らせてから厨房へと向かう。

一方あたしは、莱の姿が見えなくなると同時に、深く息を吐き出した。


「はぁ……。」

「…――なぁナギ。お前さ、この前莱と街行ったとき、アイツと何かあった訳?」


けれど、落ち着く暇もなくかけられた問いに、あからさまに動揺してしまった。

感のいい湊に近づいては危険だと、それは前から気づいていたはずなのに。早朝とは言え、うっかりこんな公の場で考え事をしていた自分の行為を悔やんだ。
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