- π PI -【BL】


まさか……あれは夢じゃなかった―――?


でもあいつに限って、あいつの昨日の態度を思い出して、あいつが俺をあっさりと手放すとは思えなかった。


だからまた今日の帰りぐらいひょっこり姿を現すさ―――


神出鬼没なヤツだからな。


思いも寄らない場所で、全く予想もしていないときに現れる―――


そうであってほしい。


そう願いながらも、俺はやっぱり会社に来ていた。


昨日無くしたと思っていたIDカードはやっぱり引き出しの中に忘れていたみたいで、そのことにひとまずはほっとしたものの、


何か不吉な予感が拭い去れなくて、しかも周のことばかり考えていたから、


俺は小さなミスを繰り返した。


周に連絡しようか…と考えたけど、キーロックの掛かったままのケータイは使えないし、そもそも俺はアイツの番号を知らない。


それが余計に俺を不安にさせた。


大体番号も知らないのに、俺たち恋人って言えるのかよ。まぁ向こうは俺の番号を知ってるだろうけど。


恋人―――なんだよなぁ……


周は俺を恋人だと言ったけれど、どこまで本気なのか。


ヤバイ……考えたら考えるほど嫌な想像だけが巡る。


暗い面持ちでパソコンに向かっていると、ふわりと覚えのある香りを感じ、俺は顔を上げた。






俺のすぐ横で、すらりと背の高いスーツ姿の男が警察バッジ(はじめてホンモノ見たよ)を掲げ、






「桐ヶ谷 ヒロさん。警視庁の橘(Tachibana)です。業務上横領について事情を伺いたいのですが」






と、温度のない言葉を発した。







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