ガリ勉くんに愛の手を
翌日の朝。

あゆ美は起きた瞬間、僕の部屋に飛び込んできて昨日ちあきからあった電話の内容を興奮ぎみに話した。

【凄腕のトレーナー】

一体どんな人物なんだろう…

プロレスラーか格闘家?

それとも昔流行った鬼コーチのような怖いおじさん。

僕自身、この話はビッグニュースでもラッキーでもなく全然うれしくなかった。

あゆ美には申し訳ないが、このまま終わってしまえばいい、などと弱気でいたのだから・・・

僕とは対照的に、

「ちあきはやっぱり私の親友だわ。
勉君、これで絶対オーディション優勝するわよ。
あー、自信がわいてきた!」

あゆ美の希望に満ちた顔を見ると、とても辞めたいなどとは言いだせない。

僕の筋肉がピクピクと動いている。

これは多分、体が「いやだ、いやだ」と拒否反応を起こしているに違いない。

色々考えながら歩いているうちに例のスタジオの前にたどり着いていた。

中に入ろうとした時、あゆ美が僕に向かってこう言った。

「いい、勉君。これは本当に最後のチャンスなのよ。
くれぐれもやる気を出して途中でリタイアしないように。わかった?!」

「は、はい。」

(体が嫌がらなければ…)と心で付け加えた。

中に入ると、ロビーでちあきが待っていた。

「おはよう、ちあき。
今日からよろしくお願いします。」

「こちらこそ。あとは勉君次第よ。
かなりハードなトレーニングになると思うから覚悟しなさい。」

(それは脅迫ですか?
ここへ来てからずっと覚悟のしっ放しなんですけど・・・)

みんな寄ってたかって僕を怖がらせてばかり。

今の心境は…?

お化け屋敷に入る前の不安と恐怖でいっぱいだ。

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