ガリ勉くんに愛の手を
あゆ美が帰った後、僕とちあきはこの広いマンションに二人きり。

リビングを出て別の部屋へと案内された。

中へ入ると、真正面の壁に大きなスクリーンとゆったりしたソファーが置いてあった。

「どうぞ、遠慮しないでここに座って。」

「は、はい。」

僕はちあきに促され、ソファーに腰をおろした。

「そんなに緊張しなくてもいいのよ。
ゆっくりくつろいでちょうだい。」

そう言うと、スクリーンの電源を入れてあるドラマの映像を流し始めた。

「これを見て演技の参考にしてちょうだい。
私はシャワーを浴びてくるから。」

(シャワー?)

これから演技の練習をすると言うのに僕を残してシャワーを浴びるなんて…

そんな疑問を抱きながらスクリーンにじっと目をやった。

数分後、なんだか急に睡魔が襲いかかってきた。

(ダメだ、寝てはいけない。)

自分と葛藤しながら、必死で我慢していたもののたまっていた疲れが一気に押し寄せ、ついにソファーに倒れ込んでしまった。

グゥー グゥー …

それからどれぐらい時間が流れただろうか?

僕は今とても良い夢を見ている。

・・・・・・

遠くからこっちに向かってゆっくりと歩いてくる人。

(そこにいるのは誰?)

段々ぼやけていた顔がくっきりと浮かび上がってきた。

(佐奈さん?!)

「ベン!」

佐奈はとても優しそうに微笑んで僕に手を振っている。

「佐奈さん!やっぱり佐奈さんだ。」

僕も彼女の元へと必死でかけて行った。

目の前に立つ佐奈が下を向いている。

「ベン、ごめんな。
何も言わんと行ってしまって。」

「いいんですよ。
佐奈さんが決めた事なんだから。」

「うち…今、後悔してるねん。
やっぱりベンの事が…」

そう言って僕の胸に飛び込んできた。
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