ガリ勉くんに愛の手を
そしてちあきは、

「健二君、スタイリストを連れてくるからここで少し待っていて。」

ちあきは僕の顔すら見ずに前を通って行こうとした。

「あの、ちあきさん！」

僕の呼びかけに一瞬、立ち止まるちあき。

「今回の事はすべて僕の責任です。
あゆ美さんは何も知らなかったんです。
それだけは信じてください。」

ちあきは振り向かずにこう言った。

「どっちか悪いかなんて関係ないわ。
あなたもあゆ美もこの世界では通用しないって事よ。」

あゆ美と同じ、僕も言い返す言葉が見つからなかった。

「残念やったな。」

そう言いながら健二はゆっくりと近づいてきた。

僕は健二と向かえ合わせになってじっと顔を睨んだ。

「男前が台無しやな。」

僕をバカにしているのか？！

「そんな怖い顔して。
なんでお前が出るんやって言いたいんやろ？」

そう、その通りだ。

僕の顔を殴ったのは健二だから。

「勘違いすんなよ。
俺はこの役を取るためにお前を殴ったん違うからな。酔っ払って殴った事は悪いと思ってる。
今はな、ちあきさんを助けてあげたいだけや。」

（ちあきさんを？）

「俺にもプライドあるんや。代役なんかで出てもうれしくもないわ。
でも俺が出る事でこのＣＭは中止にならんで済む。
そしたらお前も救われるやろ？」

（僕が救われる？）

そんな理屈があるもんか？！

（昨日の事は僕と健二、そして佐奈とあゆ美しか知らない。

「ちあきさんに言いたかったら言うてもええで。
その代わり、また代役見つけるのは大変やからな。」

腹の中が煮えくりかえるほど悔しさと怒りがこみ上げてきた。

でも健二の言うとおり、彼が代役を引き受けなければ最悪の事態になってしまう。

今は唇をギュッとかみしめて我慢するしかなかった。

結局、僕は何もできないのだから…

< 374 / 401 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop