誓~天才演技者達の恋~


苦しみを隠して生きていくのは、大人でも困難なこと。

大人でも出来ないのに、大人の演技をしたって、無理なものは無理。


「百合亜が倒れた時、アメリカの記者は死んだと思い込んだそうよ。顔が真っ青の百合亜を見てね」

「...だから、日本では全員の死亡が確認されたなんて、言われたのか?」

「そうよ。事故が起こったのは、アメリカの領土近く。日本に事故が伝わったのは、アメリカよりも後。百合亜がショックで倒れた数時間後。」


少しの差が、百合亜の人生を変えた。

ちょっとした勘違いが、百合亜を変えたのだ。

菊花ユリアと....。


「白野百合亜が死んだと思われた以上、百合亜に記憶が存在しない以上、彼女に白野百合亜のまま生きろなんて、むちゃくちゃな話だった。」

「でも、菊花ユリアでもいずれ、もう一人の自分の存在に気がつくハズだぞ?」

「その時は、その時よ。」


香織は鎌足に微笑むと、白野家の墓を後にする。

鎌足は白野家の隣に、日比野家の墓があることに気がついた。


「あっ...」

「百合亜がもし、日比野卓也と結婚しないで、記憶を取り戻した時、少しでも辛い思いをしてほしくないから」

「せめて、最後は...ってことか」

「意味ないんだけどね」


香織の言葉に鎌足は鼻で笑って、最後に手を合わせた。

香織もつられる様に、手を合わせる。


「ユリアが百合亜に戻る時、彼女はどうするのかしらね」

「.......」

「傍にいてくれた賢斗の傍に居るのかしら?それとも...戻るのかしらね?」


鎌足は香織の後ろを通り過ぎ、先に車に戻る。

その時ボソリと「オマエならどうする?」と香織に聞いた。

香織は、残り少ない線香を見ながら言う。


「戻りたくても、傍にいたくても....出来ないかな?」


香織の答えに、鎌足は頷いた。


「演技の天才は、どっちを選ぶんだろうか?
気になるけど、確信が無いからさ....。記事に載せるのは止めとくよ」


香織は一言「ありがとう」と呟いた。

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