oneself 後編
翼がお店に来たのは、開店から1時間ほどが経った頃だった。


客と一緒にやって来た翼は、あたしに軽く手を振りながら、ロッカールームへと入って行く。


あたしもいつかは、同伴なんてものをする時が来るのだろうか。


翼の後ろ姿を見つめながら、そんな事を考えていた。


少しずつ客が入って来た店内。


さきほどのように案内所からの新規の客が多く、飲み物は客によってはOKだったが、場内指名はなかなか貰う事が出来ずに、時間は過ぎていった。


ようやく待機用のソファーに戻って来て、一息つく。


ポーチの中の携帯を開くと、10時前だった。


翼は相変わらず、同伴した客の隣にいる。


あたしはいくつもの席を回り、少しだけ疲れていた。


今までは運が良かっただけ。


場内指名を貰う事は、簡単ではないんだと、改めて実感した。


最初あたしの隣に座っていた彼女は、翼の隣の席に座っている。


初日にこう忙しくて大変だな、なんてのんきに考えていると、客にもたれかかるように、密着して座っている事に気付いた。


ちょうど一人で来ている客と彼女は、はたから見ればカップルのような距離感だ。


翼も客に対して、スキンシップは多い方だと思う。


前なんか、エレベーターの所で抱きついてたし。


でも翼は、男に甘えるのが上手いタイプだと思う。


彼女の見た目によらない大胆さに、あたしは少し驚いていた。


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