最後の恋
「おい、電話鳴ってるぞ?」
「あっ、うん」
サトルに言われ携帯を確認すると、電話を鳴らしていたのは椎名だった。
どうしよう。
居留守を使ってしまったことで、電話に出ることもできない。
二回連続でかかってきた電話がピタリと止まると、焦りからかホッとしてしまっている自分がいた。
「もう40分は経つし大丈夫だろ」
しばらく話をしながら時間をつぶしたサトルはそう言って帰る支度を始めた。
「ありがとね、本当」
「おー、でも嬉しかったよ電話くれて」
「えっ?」
「お前の頭に一瞬でも俺が浮かんだことが、すっげー嬉しかった」
玄関まで見送っていると、サトルはそう言いながらゆっくりと振り返った。
「もしかしたら…俺、まだ諦めなくていいのかもな」
「えっ…あっ…それ…は…」
「なーんてな、ごめんごめん、困るよな。冗談」
サトルはそう言うと、すぐに前を向いた。
「じゃ…お大事にな」
そして、玄関のドアを力強く開けると、振り返ることをせずそのまま歩き出していく。
「本当にありがと」
ドアが閉まりかけた時、そう言ったけれどサトルに聞こえていたのかは分からない。
シーンとした空気と閉じてしまった玄関のドア。
立ち尽くしたままそれを見つめていると、複雑な想いが心の中を埋め尽くしていった。