君が描いた一ピース

一年前。

「レッツ、パズル!」

 調子のいい奴。そんな彼に惚れて惚れられて一年。何か貰えるか期待していなかったと言えば嘘だが、まさかパズルとは思わなかった。反対の手に握られているのは、絵の具セット。

 彼の意図が完全にわかったのはそれから何時間か経ってから。彼の持ってきたパズルは真っ白で。

「不良品?」

「いや、むしろ最良品」

 そんな冗談を言う彼と共に絵の無いパズルに挑んだ私たち。難しかった。本当に難しかった。パズルの微妙なカーブで相方を見つけるという無茶なゲーム。何時間かかったかな。最後のピースを嵌めるのが私か彼かをじゃんけんで決めて、私になった。爽快という意味を肌で感じられた気がする。

「よし、絵を描くぞ!」

「どこにさ」

「目の前のパズルに決まってるだろ!」

「嘘でしょ?!」

 彼は無邪気な小学生のように、パズルの白くてツルツルした面に絵の具の筆を走らせる。

「お前もやれよ」

「あ、うん。何を描いたらいいの?」

「何でもいいさ!」

 私も色々絵を描いてみた。子供っぽいなと思ったけれど、案外楽しくてパズルの白い面は私たちが描いた愉快なキャラクターで一杯になった。

「お前それ、アンパンマンだよな?」

「そうだよ」

「上手いな。お前、もしかして作者の息子か?」

「父は普通のサラリーマン。それより、息子はないでしょ。娘って言ってよ。……でもさ、あんたも上手いじゃない。それ、確かピクミンでしょ?」

「……バイキンマン」

「う、嘘だぁ」

 そのバイキンマンは異常なほど細く、頭の角から葉っぱが生えていた。いや、これは絶対ピクミンだ。それに、バイキンマンって確か角(耳?)は二本だったよね。

「下手」

「お、俺の芸術センスがお前にわかるか!」

「わからない」

 他愛も無い話を繰り返し、繰り返し、パズルから白い部分がほとんど消えたところで彼は言った。

「じゃ、崩すぞ」

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