恋した鬼姫
セラは、悩んでいた。旅に出る決心はついたが、やはり人間の国を歩くには抵抗があった。

セラが困り果てている時に、誰かがやってくる足音が聞こえた。セラは、慌てて部屋の中に隠れた。

セラは、破れた障子の穴から外を覗くと人間のお婆さんが建物の周りで草むしりを始めていた。

セラは、見ていることに夢中になり思わず、鉢巻きを床に落としてしまった。

物音にお婆さんは、気づき建物に近づいて来た。
「誰かいるのかい?出ておいで。」
お婆さんは、外から話しかけてきた。

「すみません。勝手に入ってしまって、すぐに出ていきますので。」
セラは、部屋の中から答えた。

建物の中から、女の子の声がしたのでお婆さんは驚いた。
「こんな所で何をしているんだい?」

「少し休ませて頂きたくて。」セラの声は、少し震えた。

お婆さんは、心配になり部屋に入ろうと襖に手を伸ばした。
すると、突然。

「開けないで下さい!」
セラは、声を張り上げた。
お婆さんは、ビックリをして手を引っ込めた。
「怖がることはないんだよ。何もしやしないよ。」お婆さんは、そう言うと襖の外に腰を掛けた。

「何か事情があるようだね。私に話してごらん。話し相手ぐらいなるよ。」
まるで婆やと一緒にいる気持ちになり、枯れていたはずの涙がまた込み上げてきた。

セラは、親にいきなり婚約を告げられ、その男から逃げるために住んでいた所を離れ、婆やと一緒に逃げていたが途中で婆やを亡くしたことを話した。
お婆さんは、わからない言葉があったにもかかわらず、セラがとても辛い思いをしたのだとわかった。

「可哀想に大変な目にあったんだね。大切な人が亡くなる辛さは、私もよく分かるよ。」
お婆さんは、そう言いながら持っていた手拭いで涙を拭いた。
「お前さん、これからどうするんだい?行く当ては、あるのかい?」

「はい。半年前にこの場所で1年後に会う約束をした方がいます。」

「1年後ならまだ半年も先じゃないかい。その人の居場所は、わからないのかい?」

セラは、居場所がわからないのと唯一の手掛かりである鉢巻きの話をした。
「その鉢巻きは、今も持ってるのかい?どれ、私に見せてごらん。」
セラは、襖を少し開けるとスッとお婆さんに鉢巻きを渡した。

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