イケメン大奥

あ、あの。あの、あのあの……。

頭の中に「お脱ぎください」という言葉がぐるぐる回っている。



「ここで、脱ぐの?」


「左様です」


「レイの前で、ですか?」


レイの表情に厭らしさは微塵(ミジン)もなし。冷静そのものである。


「わたくしはお召し物が間違いなく全て残されるのを確認するのが、お役目ですから、こちらで待機させていただきます」

「えっと、お役目というのは、わかるんだけどね……」


この無愛想な長身の中臈御年寄さまに、どう説明したらよいのやら。当然のごとくあたしの前に堂々と立って動かない、この人に。


「あたし、ひとりで着替えたいの」


「では、あちらに衝立がございますから、そちらで」


「脱いだ後は、どうすればいいの?」


「ベッドに横たわって、戻られるその時を静かにお待ちくださいませ」


ふ。……ふうん、……そういうことなの。


衝立、ついたてっと。ベッドの陰に確かに、控えの間にあったような衝立がある。これをベッドの脇まで引きずっていこうとする。


「いたしましょう」

見ていたレイがベッド脇に衝立を置いてくれた。
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