カナリアのウタ
始まっていた入学式。
先生が指示をして椅子へと向かった。
男子の中を掻き分けて、ぽっかりと開いた椅子に座る。
間に合わなかったという羞恥に、先ほどの男子生徒への苛立ちが私を落ち着かせたりはしなかった。
いきなり会ってなんだろう。愛とか、なんだかかんだか言われるなんて。
意味がわからない。
考えにふけていると、マイクの甲高い共鳴したような音がした。
顔をあげると
「ようこそ、新城学園へ!」
さっき見た、少年。
なんで、そこにいるのか。
「俺の名前は中橋知也だ、ここの学園の生徒会長を務めている。」
生徒会長、だと?
あの少年が生徒会長。そんなの認めたくない。
「青春をこの学園で謳歌しろ。我が生徒の入学、心から嬉しく思ってる。」
先ほどにみただらしなさげの喋り方と違った、凛とした声が鼓膜を揺らす。
『…ぅそ…』
「…これで俺の話は終わりだ。三年機械科中橋知也。」
たくましい礼。それに比例するかのように盛り上がる拍手。
そんななか私は恐れていた。
目をつけられたのでは無いかと。
生徒会長にあんな口調で喋ってしまったから、私の平穏はくずれるのではないか。
いや、その時はその時で解決しよう。
彼女はわからなかった。
別の意味で目をつけられたことを。
そこまで知らなかったのである。