彼は、理想の tall man~first season~

だけど、次の瞬間――敦君の表情が一変。

見たことのなかった焦りの表情に、私は何事かと思い、状況をただ見守った。


敦君は、スーツのポケットに手を突っ込み、次にバッグを弄っていた。


「完全にやらかしてんな」

「――え?」


今度は携帯を取り出して、どこかに電話を掛け始めていた、けれど。


――寝てるか?

繋がらなかったらしい携帯を閉じ、一言そう呟いた。


「鍵、忘れた」

「――はい?」

「今朝、晃と一緒に出たんだけど、」

――完全に忘れて出たな。


私に言っているよりは、独り言を言っているような雰囲気で。

敦君は、ため息を吐き出しながら天を仰いだ。


状況から考えて、電話を掛けた相手は晃だよね?

出なかったということは、晃はもう、ご就寝?

ってことは、帰れないという非常事態?


敦君は、自分のマンションの方に体を向けた。

恐らく明かりがついてないかを確認しているんだろう。

チャイムを鳴らせばなんとかなるかも知れない――。

でも、晃に限っては、寝たらよっぽどの事がない限り、先ず起きない。


ということは――これって、ハプニング?
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