償いノ真夏─Lost Child─

あの〝悪夢〟から一ヶ月。
小夜子は以前と変わりなく、心優しい清廉な少女のままであった。そんな彼女を見ていると、嬉しい反面、夏哉は不安だった。

あのような体験をした姉が、何事もなかったように生活している。変わったのは姉ではなく、村の方であった。あの日を境に、姉はこの村で神様のような扱いを受けている。その家族に当たる自分は、何もしていないにも関わらず畏敬の目で見られる。

「ナツ、学校に遅れるよ」

そう言って手作りの弁当を渡されると、夏哉は少し違和感を感じるのだ。

「ありがとう……行ってくるよ、姉さん」

父はというと、あれっきり家にも帰らずにふらついている。だが、それでも生活できるのは、やはり小夜子のおかげなのだ。何もしなくても、金や食料はやってくる。姉への〝供物〟として。

そんな状況下でも、姉はあの夜のことには触れない。

そして、なにもない平穏な日々が続いていた。

──あの日までは。


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