キミは嘘つき蝶々
「おおおおばあさまが」

森口は俯いて大量の汗をかきながら続けた。

「かかか片桐君には近づいてはならないとおっしゃるので」

「は?」

内心、「片桐くんが嫌いだから」と答えなかったことにほっとしながらも、俺は顔をしかめたまま口を開いた。

「んで、おまえはばーさんの言いなりになってんのかよ」

「おおおおおばさまの言葉は絶対です」

怯えながらも言い切る森口に、なんとなく、あの家でのばーさんの立ち位置がわかったような気がした。

完全なる独裁者。

妖怪、お言いつけババア。

「べつに学校に見張りがついてるわけでもないし。
そこまで避ける必要なくね?
それとも別に理由があるわけ?」

話を核心に戻す。

俺が知りたいのは、妖怪ばーさんの言いつけじゃない。

森口自身の気持ちだ。

「かかか片桐くんは」

かああっと顔を赤らめて森口は自分を守るように本を胸に抱いた。

「どうして、私なんかと話したいんですか?
」

「……………」

しん、と沈黙が降りた。

答えを返さず黙ったままの俺に、森口は恐る恐るといった風に目線を上げた。

俺と彼女の目が合う。

そのまま彼女は金縛りにあったように俺を見つめた。

今、自分がどんな顔をしているのか、わからない。

でも、きっと。

すごく情けない顔をしてる。

「俺は……」

掠れた声が出た。

森口の肩がびくんと震える。

鳴り止むことのない心臓の音が、俺の余裕のなさを物語っていた。

「俺は森口が……」





< 57 / 130 >

この作品をシェア

pagetop