キミは嘘つき蝶々
「はあ」

爽やかな朝の空気の中、俺は重いため息を吐き出して、背中を丸めた。

鞄を脇に挟み、スラックスのポケットに片手を突っ込んでズルズルと引きずるように足を進める。

校門に続く坂道はいつもより長く険しく思えた。

昨日は、なんとか妖怪バハアの襲撃をかわし、無事、生きてあの屋敷から逃げのびれたものの、

その前にも花井夏や藤森アンナに散々しばかれたせいで、身体中がズキズキ痛かった。

ちくしょう、

なんであの家の女どもは、揃いも揃って狂暴なんだ。

しかも、あの妖怪バハア。

ナギナタ持ち出してくるって、どういうことだよ?

銃刀法違反とかならねぇの? あれ。

ハチマキまでまいて、殺る気満々だった、バハアを思い出すと、なんだか腹の痛みが増してくる。

俺はただ、森口と話がしたかっただけなのに。

どうしてこうも散々な目に合わされないといけないんだろう?

挙げ句に

『森口カンナなんて人、家にはいないわ』

あれはどういう意味だよ?

「わけわかんねー」

ガシガシ頭をかいて、再びため息を漏らす。

俺は重い足を引きずりながら………

「…う………?」

って。

なんだこれ?

足が鉛のようだ。

全然前に進まない。

まるで、ひと一人担いでいるような……

「お・は・よ。
ダーリン」

すぐ背後から発せられた聞きなれた声にガックリと頭をたらす。

「………なにやってんだよ」

額に青筋を立てながら振り返ると、おんぶお化けのように俺にしがみついたヤスが、気持ち悪い顔で唇をとがらせてきた。






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