さくら
はじまり
ふ、と。
桜の花びらが、落ちる。
そこには、とても綺麗な女の子。
「……きれい」
うっかりもれてしまった声に気付いたのか、その子は僕を見た。
『………』
「え?」
彼女が、何か言った気がする。
でも、僕には聞こえなかった。
*
「おい、おい水島!」
「…あ、はい!」
「寝てたのか?」
「へ?あ、違います!起きてました!」
「そうか、それならこの問題を解け」
「……すみません、寝てました」
クラス中に沸き上がる笑い声。
はぁ、と溜息をつくと、先生に叱られまた溜息をついた。
あぁ、なにもかも春がいけない。
こんなにあたたかいから!
だから、僕は授業中に眠ってしまったんだ。
僕は何も悪くない、たぶん。
授業を聞く気なんてない。
だってつまらないから。
勉強なら、兄さんに教えて貰った方が断然楽しい。
何気なく窓の外を見た。
ここが窓際の席で日が照ってあたたかいことも、いけないんじゃないかな。
(……あ)
桜だ。
花びらはほとんど落ちてしまっている。
なんだっけ?
なんだかとっても大事なことを忘れてしまっている気がする。
*
「まさか将が授業中居眠りするとはな!」
「うるさいなぁ、仕方ないだろ?あたたかいんだから」
「だよなー?俺も寝てたぜ?」
「えっ!嘘、本当に!?よくばれなかったね」
「あったりまえだ!俺がそんなヘマするかよ」
自慢げに笑う友人。
僕もつられて笑う。
僕たちは自由なんだ!
なんて、小学生の頃はよく授業さぼって走り回っていた。
そのあとは先生にすごく怒られて。
それでも反省なんてしなかった。
下校中に、怒った先生の顔を思い出してまた大爆笑。
そんな僕らを見て、彼女が。
あ、あれ?
何かおかしい。
どこかが噛み合わない。
だってほら、どうして今僕らは授業を受けているんだろう。
中学生になったから?
違う、他にきっかけがあった気がする。
なんで忘れているんだ?
どうして、
だって、
ほら。
『将ちゃん』
あぁ、思い出せない。
.