さくら
はじまり


ふ、と。

桜の花びらが、落ちる。

そこには、とても綺麗な女の子。

「……きれい」

うっかりもれてしまった声に気付いたのか、その子は僕を見た。

『………』

「え?」

彼女が、何か言った気がする。
でも、僕には聞こえなかった。







「おい、おい水島!」

「…あ、はい!」

「寝てたのか?」

「へ?あ、違います!起きてました!」

「そうか、それならこの問題を解け」

「……すみません、寝てました」

クラス中に沸き上がる笑い声。
はぁ、と溜息をつくと、先生に叱られまた溜息をついた。

あぁ、なにもかも春がいけない。
こんなにあたたかいから!
だから、僕は授業中に眠ってしまったんだ。
僕は何も悪くない、たぶん。

授業を聞く気なんてない。
だってつまらないから。
勉強なら、兄さんに教えて貰った方が断然楽しい。

何気なく窓の外を見た。
ここが窓際の席で日が照ってあたたかいことも、いけないんじゃないかな。

(……あ)

桜だ。
花びらはほとんど落ちてしまっている。
なんだっけ?
なんだかとっても大事なことを忘れてしまっている気がする。







「まさか将が授業中居眠りするとはな!」

「うるさいなぁ、仕方ないだろ?あたたかいんだから」

「だよなー?俺も寝てたぜ?」

「えっ!嘘、本当に!?よくばれなかったね」

「あったりまえだ!俺がそんなヘマするかよ」

自慢げに笑う友人。
僕もつられて笑う。
僕たちは自由なんだ!
なんて、小学生の頃はよく授業さぼって走り回っていた。
そのあとは先生にすごく怒られて。
それでも反省なんてしなかった。
下校中に、怒った先生の顔を思い出してまた大爆笑。

そんな僕らを見て、彼女が。



あ、あれ?

何かおかしい。
どこかが噛み合わない。

だってほら、どうして今僕らは授業を受けているんだろう。
中学生になったから?
違う、他にきっかけがあった気がする。

なんで忘れているんだ?

どうして、

だって、

ほら。



『将ちゃん』



あぁ、思い出せない。





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