ここにある
父の病状については、詳しく聞かされていないけれど

母が仕事帰りや早朝に見舞っていたというからには、軽い病気ではなかったのかもしれない。

『今は元気で、陶子に会いたがってる』

母に聞かされ、あたしは父に会うことにした。

しかし、いざ病室で二人っきりになると、何を話していいのかわからない。

あたしは借りてきた猫みたいに黙りこみ


父もまた、何もいわず、窓から外を眺めたりお茶を飲んだりを繰り返し、時間は流れた。

会話らしい会話は何もなかった。

でも

「制服、似合ってるな」

父が満足そうに笑ったので、制服姿を見たいと言った父のリクエストにこたえてよかったなと思った。

あたしは「また来るね」と挨拶し、病院をあとにした。


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