- π PI Ⅱ -【BL】


低く聞かれて、俺は目を開いた。


「答えろよ。お前だって俺が来なかったら強引にあいつに迫ってただろ?」


無表情に言われて、俺が力なく手を下ろす。


「あいつも男だが、場所と状況によっては簡単にひれ伏される。お前がその隙を狙ってあいつにしようとしたことは、俺と大差ない」


「でも…俺はその先のことを…考えていなかった…」


ましてや無理やり組み敷いて犯すようなこと、一ミリも考えてない。


何とか答えて…それでも桐ヶ谷は果たしてどうなんだろう…と考えてみる。


そう言えば…バーで飲んでたとき、俺たちはそんなような内容の話をしていた。




「欲望なんて誰にでもある。


特に目の前にその対象となる人間が居れば、手を出したいと思わないヤツなんていない。





それが―――男ってもんだ」




低く言われて、俺は目をまばたいた。




「ただ―――それをしないってのが自制であり、それができなきゃ犯罪に発展するがな。


俺はあいつに訴えられても、それはそれで仕方ないと思ってたよ。



自分でも自分が信じられなかった。あいつを目の前にすると―――理性とか道徳とか――――…正義までもが……俺の中で吹っ飛び、


狂う」




刑事が険しかった視線を緩めて、僅かに目を伏せると再び額を覆った。



嫉妬?独占欲?


そんな簡単なもので片付けられないな。



刑事が桐ヶ谷に向けるものは―――狂気にも似た愛情。



誰にも渡さない。誰にも触れさせない。俺だけの―――


でも……それは、俺の目にきれいなものに映った。




まるでたった一つの宝物を守るように、こいつが桐ヶ谷を愛しみ、大事に思ってるから。




桐ヶ谷は―――…それが分かってるから、この刑事と一緒に居ることを選んだ。


桐ヶ谷が訴えたり、この刑事から離れていかなかったのは―――




二人に深い愛情があり、絆があるからだ。




二人の指の同じ場所に―――同じリングが光っていることが何よりも証拠だ。




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