きみ、ふわり。


 小さく舌を鳴らしつつ、ふと栗重の隣に居る『サエちゃん』に視線をやれば、彼女は猛獣に狙われた小動物のように、酷く怯えた目をして小さく震えていた。


 いや、俺は別に……
 というか、『抱いてください』とか言って誘って来たのはそっちじゃん?

 けど、そんな姿が愛しいほどに可愛くて。
 思わず顔面の筋肉が緩んだ。



「本気?」

 ちゃんと笑えているかどうかはわからないが、極力微笑む努力をして彼女に問う。

「え?」

 少しだけ色を取り戻した彼女の顔が、ほんのり薄桃色に染まる。

 校庭の端を彩る桜に似ている。
 そんな風に思った。


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