スピカ
 濃藍の箱が、夜空の色のように見える。きっと、楸さんの話を聞いたからだろうけど。

柔らかい箱がどこか不思議な物に思えて、じっと見つめてみる。
煙草にこんなにも興味を持ったのは初めてだ。増してや、嫌いな匂いがする煙草に。
吸った時の味だって、きっと好きになれないと思う。それでも、手にはしっかりとその煙草の箱があった。

「青白い綺麗な星でさ、でもスピカだけが明るくて何だか独りぼっちみたいに見えるんだよ」

一緒だ。あたしも、独りぼっち。
スピカはきっと、寂しがっている。
あんな真っ暗闇な中に独りぼっちで、怖がっているんだよ。

「……独りぼっち」

ぽつりとそう口走ると、目の前を紫煙が過ぎった。いっぱいになった吸い殻の上に灰を落とすと、灰皿から少しはみ出て、白い破片がテーブルを汚してしまった。

「……本当は、小さな星がたくさん周りにいるのにね。ただ、見えないだけで。独りぼっちなんかじゃないんだよ」

「、誰も」と付け足す声に、胸が震えた。


どうして、こうもクサイ台詞を吐けるのだろう。
紛らわすように笑いを零すものの、それでもその台詞に、いや、その言葉に泣きそうになっている自分がいる。

どんなにあたしを包み込む言葉だったか、多分、楸さんに自覚はないだろう。それが星に対する言葉だったとしても。

楸さんが口にする事は、いつだって意図が分からない。

「……詳しいんですね」

「ただの雑学程度だけどね」

鼻で笑う仕種が、自己卑下しているみたいで、どこか憎たらしい。

それなのに、声が、言葉が、頭から消えないなんて。そんなの、本当に馬鹿げてる。
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