カセットテープ
海恋の再生【1】
 私立甲蘭高等学校。
 この学校、元は女子高等学校であったが共学となり、男子を受け入れたのは三年前からだった。
 男子と女子の比率が一対三と女子の割合が大きかった。
 勉強に関しても難易度が高く、名門大学合格率も私立の中では群を抜いていた。
 共学にした当初この学校を受験するのは大体が女の子で、男の子が受験する人は極端に少なかった。
 でも近年、男の子の受験者数もやっとのこと増えてきていた。
 その中には女の子目当てで受験する生徒もいるようだった。
 校舎全体や外壁は白一色の純白で統一的に彩られ、そこら辺が女子高等学校の面影を感じさせていた。
 施設も私立なだけあって、清潔感のある広い食堂などは、何処の私立よりも充実しているほどであった。
 そんな長所しかなく優れた甲蘭高等学校に、一人の生徒が交通事故で亡くなるという不幸な出来事が起きた。
 それは瞬く間に学校中に浸透していき、学校側としては一人の生徒が亡くなったことよりも、そのせいで学校の評判や体裁が落ちないかと気にかけていた。
 その生徒が亡くなったのは水曜日で、仲の良い生徒は葬儀に参列していた。
 今では三日経ち、亡くなった生徒が同じ学校の生徒であることが記憶から消え去っていき、生徒達は普段通りに何もなかったかのように授業に出ている。
 そんな生徒達とは違い、この出来事で深く心に悲しい傷を受けた女の子がいた。
 彼女の名前は森下海恋。亡くなった生徒の恋人であった。学校で誰よりもまだ恋人のことを思い続けている人だった。
 土曜日の午前だけの授業を心ここにあらずっといった感じで彼女は受けていた。授業をしている先生はそのことに気付いていたけれど、注意をすることは決してなかった。亡くなった生徒と恋人関係であるのを先生も生徒達同様に知っているのだった。
 言い換えれば、先生も知っているほどの公認の恋人関係の仲だったといえるのだろう。
 そのことからいってみても、彼女はかけがえのない大切な男性(ひと)を亡くしてしまったのだから、深層の奥底に傷がついているのだった。
 それはあくまでも内面的なものであったが、外面的なものにも変化が現われていた。

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